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モバイル社会研究所

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通信業界の直接の利害を離れ、自由独立の立場から、モバイルICTがもたらす光と影の両面を解明し、その成果を社会に還元することを目的とする、NTTドコモの社会科学系の研究所です。

付録 2030年のモバイル社会ビジョン(再録)

モバイル社会白書Web版

避けて通れない人口問題

これからの日本の将来を考えるにあたって人口問題を避けて通ることはできない。2018年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」によると、2030年以降はすべての都道府県で一貫して総人口が減少するとのことである。地域人口減少は地域社会・地方自治体の存在を危うくするものである。地域においては医療・教育・交通といった行政の根幹を揺るがす課題が山積し、これまで地方を支えてきた農林水産業の担い手不足も相まって地方創生・観光振興・地域農業活性化は喫緊の課題である。

人口推計
図1 人口推計

出所:2015年人口は、総務省統計局「平成27年国勢調査」を加工して作成。2030年推計人口は、「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)(http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp)を加工して作成

2025年問題といわれて久しいが、2025年は1947年~1949年生まれの団塊の世代が後期高齢者となる75歳に達する年である。また医療・介護費の増加や一人暮らしの高齢者が増えることによる孤独死の増加も懸念されている。さらに2030年には人口が1億1,662万人まで減少し、人口の1/3が65歳以上となる見込みとなっている(図1)。

これからの「人口減少社会」の課題と対策等をまとめると図2のとおりとなる。

人口の減少が引き起こす経済縮小スパイラル
図2 人口の減少が引き起こす経済縮小スパイラル

出所:みずほ総合研究所(2014)「内外経済の中期見通しと人口・地域の課題~みずほ総研が描く2020年の世界~」p.82の図を加工して作成

消費者数の減少に伴う需要減がもたらす経済縮小に対して、昨年4兆4162億円と過去最高を記録したインバウンド消費[1]は無視できない存在となってきている。

労働力不足に対しては外国人と女性、そしてシニアの活用が求められている。すでに街中においては外国人労働者が当たり前のように働いている。これからの超高齢社会においては積極的にシニアを活用しつつ、働き方改革や働き方の多様化に加えて5G・IoT・AI・音声認識といった新技術の活用も求められている。

2030年のモバイル社会ビジョン

このような社会課題を検討していくにあたって当研究所が2006年に策定した「2030年のモバイル社会ビジョン[2](図3)」を紹介したい。

「2030年のモバイル社会ビジョン」は、まず2030年までの日本社会の最も大きな変化である人口減少社会がもたらす少子高齢化や働き手の減少という社会課題を背景に検討されている。このビジョンは現在から未来を予測するという方向ではなく、まず自分たちにとって「望ましい未来」を描いた上でその未来から現在をふりかえるという「バックキャスティング」という手法を用いて構築されている。当時のあとがきにはこうある。

―フォアキャスティングやシミュレーションにもとづく未来予測のように、個々人の意思には関係なしに確率的に社会の道筋がきまっていく、と考えるのではなく、私たちが構築したビジョンを社会へと公開・発信することを通して、よりよい社会の実現へ向けて個々人が行動するための契機になれば、と考えたからである。

未来を他人事のように受け入れるのではなく、自分たちが積極的に関わることで未来をつくっていこう―そんなポジティブな展望を開くものとして、この「2030年のモバイル社会ビジョン」が実施されることとなった―

 「2030年のモバイル社会ビジョン」では将来の変化をもたらす2つの「軸」と、その軸の変化の過程をあらわす3つの「道」が構想されている。設定された軸は、第1にモノを買い求めることで満足するのではなくもっと自分の体験や心の内側を大切にしていくような「モノからコトへの変化」、第2に要件の伝達だけでなく人の気持ちや経験までも伝える「伝達から共振・共鳴への変化」である。そして、この軸の変化の過程について以下の3つの「道」が構想されている。

  1. 「メディアの変革による文化的影響」
  2. 「モバイルネットワークの進化」
  3. 「社会構造の変化」

1「メディアの変革による文化的影響」については、「情報発信の主体がマスメディアからパーソナルメディアへ移行」することを想定している。その先駆けの一つとしてiモードがこれにあたるのではないだろうか?さらに「パーソナルメディアによるネットワークコミュニティ社会が誕生」することを予測している。今日のSNSの利用拡大がこれにあたると考えられる。

2「モバイルネットワークの進化」については、「生活環境と融合したユビキタスネットワークの完成」に基づく「知を創発するインテリジェントネットワークの出現」を予測している。2018年現在では、スマートフォン上で繰り広げられる様々な便利な機能として実用化が進んでいる。

3「社会構造の変化」については、「利便性を重視したテクノロジー社会への合意形成」に基づき、「新たなソーシャルソリューションネットワーク型社会への転換」が構想されている。モバイルがもたらす光と影に応じて、新たなルールを作り直し、社会の構造がネットワークに適用した形に移行することを予測しており、進展は遅いがその方向に進んでいる。

2030年は「モバイル・コミュニケーションをすればするほど響きあう文化的社会が創発」されるとある。今後、いくつものコミュニティに参加する個人同士がつながり合い、ネットワークは人々にとってコラボレーションのための新しい場所となる。さらに人間同士の枠を超えて、ユビキタスネットワークにつながった様々なモノがちょっとした「知能」をもち、ロボット化していくことを予期している。現実空間の中で様々なロボットが共存し、人間の生活や社会活動を手助けすることが当たり前になる。人口減社会においてモバイルネットワークが貢献できることは少なくない。

あえて再録させていただいたのはこれからの社会問題「人口減少社会」をひとりひとりが自分ごととして考えていただきたいからである。モバイル社会研究所はこのような課題に対して今後も真摯に調査研究を行い、みなさんと一緒に考え、行動していきたいと考えている。

2030年のモバイル社会ビジョン-2030年へのロードマップ-
図3 2030年のモバイル社会ビジョン-2030年へのロードマップ-

■注

  1. [1]国土交通省官公庁(2018)「【訪日外国人消費動向調査】平成29年(2017年)年間値(確報)」
  2. [2]モバイル社会研究所(2006)「きみがつなぐみらい」NTT出版

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