
7月12日夜から降り始めた雨は、13日朝から新潟県から福島県にかけて、記録的な集中豪雨となり、信濃川水系の5河川が決壊して水害となった。その結果、新潟県三条市、中之島町を中心に、死者16名という大きな被害をもたらすことになった。 今回の水害では、災害情報の面でも、様々な問題が析出されてきた。具体的にいえば、気象情報や河川情報を活用して、自治体が避難勧告を発令する段階、避難勧告を住民に伝達する段階、そして情報をうけた住民が行動する段階のそれぞれで問題があったようである。そこで本論では、新潟・福島豪雨水害時に情報面でどのような問題があったのかを、各種資料と、現地聞き取り調査をもとにまとめることにする。
市町村がより早い段階で避難勧告を出せば、住民の避難がスムーズになり、犠牲者を減らすことができる。ところが、水害の模様を伝える新聞各紙によると、避難勧告の発令が遅れたことが大きな問題として取り上げられている。しかし各自治体への聞き取りによると、たしかに中之島町では避難勧告が決壊直前と遅かったが、三条市、見附市ではいずれも決壊の1時間半~3時間ほど前に発令していた。たとえば三条市は10時10分、11時、11時40分の3回発令しているが、最後の11時40分としても決壊の1時間半前だし、多くの犠牲者を出した市街地が水没する3時間ほど前のことであった。三条市や見附市では発令時刻はそれほど遅くなかったといえよう。
しかし、より適切な避難勧告の決定には次のようなことが必要であろう。
| (1) | 雨量・水位などについて、避難勧告のための具体的な基準を設定すること。たとえば、警戒水位の1ランク上の「危険水位」を設定し、発令基準とするのも一案である。また名古屋市のように、危険水位(計画高水位)到達後の予想雨量が30mmを越える場合などと、予想降雨量を追加するのもよいだろう。 |
| (2) | 越水情報を的確に収集する体制を作ること。今回決壊した右岸川の情報が不足していたようだが、従来の水防団に加え、近隣住民の通報制度、監視カメラなどで、河川情報の把握体制を充実するべきであろう。 |
| (3) | ハザードマップを整備し、浸水予想場所および水害用の避難場所を設定しておくこと。 |
| (4) | 気象台や河川管理者とホットラインを設置するなどして、自治体職員が専門家から気軽に助言を受けられる体制を作ること。 |
実は、今回の問題は、勧告の発令が遅れたのではなく、決定した避難勧告を住民に伝達できなかったことにある。避難勧告は自治会長への電話連絡によって住民に伝えられることになっていたが、読売新聞によると、三条市では、嵐南地区の自治会長24人のうち22人は避難勧告の連絡を受けていなかったという。混乱状態にあった市では2回目、3回目の勧告については、発令の決定はしたものの、自治会長への電話連絡を忘れていたようである。 ここから次のような教訓が得られる。
| (1) | 電話連絡のように労力を必要とすると、伝達が後回しになってしまうことがある。 |
| (2) | 自治会長-班長-住民というリレー式の伝達は、混乱状況では成功しにくい。 |
| (3) | 伝達システムは、常日頃から利用されている必要がある。実は三条市には燕三条エフエムという、コミュニティーFM放送があり、市長が緊急割り込み放送ができるシステムがあった。しかし当日昼すぎまで、これが使われることはなかった。いつも使っていないので、利用が後回しになったのである。 |
| (4) | 伝達システムは、「プル型」ではなく「プッシュ型」である必要がある。FMラジオは利用が容易で、降雨中も聞き取りやすいという優れた特性を持つ。しかも取材をもとに避難勧告や決壊をいち早く伝えていた。しかし、ほとんどの住民がFM放送を聴いていなかったので、重要な情報が伝達されなかったのである。人が情報を引き出す形の「プル型」のメディアでは、このような問題が起きやすい。 |
こうした事を考えると、強制的に一斉に情報を伝達するシステムの必要性が実感される。その基本となるのは、同報無線である。現在7割ほどの自治体にあるが、今回犠牲者を出した自治体ではいずれも未整備だった。早急な配備が望まれる。また補足的な手段として、携帯メールなどを使って避難勧告を伝達するような仕組みも、検討されてよいかもしれない。
報道及び消防庁資料によると、16人の死者のうち水害で亡くなった人は14人であった。そのうち自宅で亡くなった人が7人、避難や通勤途中など自宅外で亡くなった人が7名と半々であった。逃げ遅れて自宅で水死した人が多いのが、今回の水害の特徴である。
逃げ遅れた第一の原因は、川が決壊したことも知らぬ間に自宅が浸水し、急激に水かさが増したためであった。
三条市のある被災者(30代男性)の話によると、当日午前中はあまり危機感を感じなかったという。決壊した1時頃、サイレンも鳴らず、テレビでも決壊情報はなかった。2時半頃、床下浸水すると、急激に水位が上昇し、戸の透き間から水が入ってきた。その様子は「タイタニック号の沈没のようにどんどん水が入ってきた」という。そして「畳の上にバケツで水をまいたように、さーっと水が上がってきた。」という。膝ほどの水深の中を避難したが、濁って足下が見えず、恐怖を感じたという。そして、もし、あれが夜だったらと思うと、ぞっとすると話していた。
避難勧告も決壊情報も伝えられなかったので、危機意識が生まれず、避難が遅れたのである。
今回、災害弱者の被災が問題となった。14人の死者のうち11人が70歳以上の高齢者で、自宅で亡くなった7人はすべて70歳以上だった。対策として国では、あらかじめ寝たきりの人など災害弱者を登録しておき、地域の人が助けるという互助制度を検討中である。災害弱者のプライバシーの問題や、地域全体の高齢化など、克服すべき課題もあるが、そのほか、情報面でやるべきこともある。
| (1) | 寝たきりの人を浸水後に避難させることは困難かつ危険であるために、早めに避難させなくてはならない。そのためには、避難勧告以前に、「避難勧告準備情報」等を出して、早期の避難を促す必要がある。名古屋市では東海豪雨をきっかけに、避難勧告準備情報を出すことになった。その発令条件は、「川の水位が水防警戒のため出動する高さに達し、さらに水位の上昇が予想されるとき(以降1時間予想雨量が30ミリを超える場合)」「1時間に50ミリ以上の雨が降り、さらにその後2時間で100ミリ以上の降雨が予想されるとき」などとなっている。災害弱者は、こうした情報を「避難勧告」と見なして、早めに行動することが重要である。 |
| (2) | 逃げ遅れて水の中を避難する時の被害を防ぐことも重要である。まず自宅の2階に避難すればよい場合は、無理に外に避難せず、危険を回避するべきである。それには水害ハザードマップを進化させて、想定水深や水の勢いから、自宅避難が可能な地域を設定する必要がある。また自宅外に避難が必要な場合は、近所に避難ビルを指定するなど、避難距離を短く設定することも必要である。背負って逃げるにしても、水の中を何百メートルも避難することは不可能だからである。 |
| (3) | 今回、自宅が浸水した後に、大事な物を上に上げるという住民行動が頻繁にみられた。たとえば三条市の一人暮らしのある被災者(70代女性)は次のように行動している。「当日3時頃、水が家に入ってきた。するとタンスなどがプカプカ浮いて倒れ、部屋中めちゃくちゃになった。ちょうどそのころ下田村に住む娘から電話があったが、電話機も水の中にひっくり返ってしまった。娘も電話だけで、助けに来ることはできなかった。大事な荷物を2階に上げたが、向かいの人が2階に上げるのを手伝いに来てくれた。まだ仏壇などを上げようとしたが、だめだった。停電もした。その後、1人、物置のような2階に上がって助けを待っていた。 |
高齢者の場合、特にこうしたことに気をとられ、避難の機会を逸することが懸念される。浸水時にこうした危険行動をとらないように、日頃から啓発していく必要があるだろう。
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