中間報告:携帯電話不正利用の予防に関する研究

本研究は、携帯電話の普及と機能の高度化・複雑化によって生じるべき将来の問題を未然にとらえ、予め適切な対応策を考案することによって、それが社会にもたらしうるマイナスの効果を極小化することを目的とする。既に社会問題化しているような負の効果については、認知した企業の側で既に対応しているものが多い。しかし、今後生ずべき問題に対して組織的に対応することは既存の枠組では困難である。本研究は、その欠を補うものである。つまり本研究は、

(1)使用者の意識や社会的モラルに帰すべき問題
(2)事業会社として対応すべき問題
(3)国の法制度として解決の必要な問題

を区別しつつ、それぞれについて適切な対応を行うことによって、携帯電話の広汎な普及がもたらす負の効果を最小限に留めようとするものである。

携帯電話の普及に負の効果があることは、近年広く認識されてきた。その中でも、列車内通話マナーの確立や自動車運転時の通話禁止といった、「電話」としての本来の機能に即した問題については、対応がまだ容易である。しかし、携帯電話が高機能化すればするほど予想外の問題が発生し、しかも各種の機能を複合することよって問題が複雑化する。たとえば、電子マネー機能が付加された「おサイフ携帯」は、通信手段が内蔵された電子的決済手段という、従来社会に存在しなかったデバイスであり、新たな問題を発生させる可能性を内在している。

それらには、従前の法律学の思考様式から対応が可能な問題もあるが、携帯電話が広汎に普及することによって、いわば量が質に転化する形で問題が生ずることがある。たとえば、カメラ付き携帯電話を用いた盗撮行為は、デジタル・カメラを用いた行為と同等に評価されるが、他方、いわゆるデジタル万引きについては、デジタル・カメラによる場合と携帯電話による場合とでは、社会的影響は大きく異なる。社会的な影響が大きければそれが規範意識に反映し、ひいては法に転化する可能性がある。したがって、法的思考の枠内で問題とされないような行為類型についても、予め適切な対応策を講じておく必要がある。

このように、携帯電話の不正使用(悪用)に伴って生ずる問題は、社会において公的に位置づけられ、さらに法に反映することによって最も解決の要請される問題となる。したがって、本研究においては、何が技術的に可能であるのかを把握すると同時に、それを法的に処理する場合の問題点を探求するという、複合的な視点が不可欠である。即ち、ただ単に技術的リスクを検証するとか、眼前にある問題の法的なマネジメントを議論するとかいった一方通行の研究ではなく、法的知識を有する者、技術的知識を有する者、ビジネス的知識を有する者、そして実際に不正利用をする可能性がある若年層のユーザーが、まさに一体となった研究体制をとる必要がある。それによって、近い将来起こるであろう不正利用法を考案し、その普及可能性を考え、かつ法学的観点から総括し、対処法を検討する。特に、携帯電話の「悪用」については、高度な技術的知識を有する意欲盛んな若者が発信源となることが多いと考えられ、それを組織化することが、本研究の前提である。それによって得られた知見を、社会意識と法の側面から検討し、リスクが極大化した場合を含めて、将来像を検討する。このため、NPO法人知財研究推進機構を基盤とした、大学・企業といった枠にとらわれない自由な視点における研究体制の下で遂行することとする。本研究は、そうした研究手法の面でも、斬新なモデルを提供するものである。

以上のように、本研究においては、携帯電話の不正規な使用、即ち「悪用」のあり方としてどのようなものがあるのかを、今後提供される機能やサービスに即して、リアル・タイムでとらえ、社会的・法的に適切な方策を予め考察しようとするものである。より具体的には、本年度においては、

(1)Felica(お財布携帯機能)に関する研究
(2)携帯電話の不正改造に関する研究

の2つをコアプロジェクトとして設定し、それぞれプロジェクトメンバーを決定し、緻密な議論と実験を重ねている。
(1)については、現在関連資料の収集及び分析を行っている。収集先は、上述した若手ネットワークを生かして、大学関係者・企業技術者のみならず、インターネットサイトや口コミ情報までも包括している。また、実験的使用による問題提起のほか、Felicaの将来機能に対する提案も検討している。
(2)は、実際に携帯機種を改造し、手軽な改造被害から深刻な改造被害まで幅広く検討することとする。これらの検討会の他に、ドコモも含めた技術者らとの検討会、及び弁護士らを招く法的討論会も開催する予定である。
(1)並びに(2)については、月に一度の検討会の中で進捗状況を確認しながら研究を進めている。

その他、サブプロジェクトも複数進行している。現在、汎用ブラウザ・指紋認証システムによる不正利用・携帯電話を用いた詐欺行為、等について意見交換を行っている。