
小学校の教諭として積極的に情報モラル教育を実践している野間先生。様々な危険に子どもたちが自ら対処できる力を養うために、今、必要な教育とは何か。豊富な経験から紡ぎ出された貴重な提言の数々に、子どもたちへの温かな眼差しが息づいています。
―まず、小学生とケータイの関係についてうかがいたいんですが、先生の学校では、ケータイはどのくらい浸透しているのでしょうか。

野間俊彦 先生
1955年鹿児島県生まれ。1979年武蔵野美美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。現在、東京都北区赤羽台西小学校教諭。平成13年度から情報モラルの育成に取り組み、実践を学校のホームページで公開している。他の学校や研究会に講師として呼ばれることも多く、情報モラル育成の必要性を広く問いかけている。著書に「インターネット教授法ガイドブック」「インターネット護身術」など多数。
野間:だいたい6年生で4割、5年生で3割、4年生で1割という感じでしょうか。全国的なデータでは5年生で1割というのもありますから、うちの学校は浸透度が高いかも知れませんね。
―塾に行きはじめるなどといった理由で、親が買い与えるケースが多いのでしょうか。
野間:ほとんど子どもからの要求だと思います。今の子どもたちは、友だちと同じものを持ちたいという意識が強いんですね。グループ内でみんながケータイを持っている場合、持たないと仲間に入れなくなってしまう。ブランドものの洋服と同じような感覚じゃないでしょうか。だから、持ってないグループは、みんな持ってないんです。
―ケータイの影響力という観点で、子どもたちはケータイを持つことで、どんなところが変わったと考えられますか。
野間:ひとつ特徴的なことをあげると、子どもたちがケータイを利用する際は、電話じゃなくほとんどメールなんですが、今、文面が非常に短くなっていますね。ひそひそ話しとか相づちみたいなことをメールでやっている。その影響かどうかは断定できませんが、面と向かっての日常会話でも短い。言葉が足りないという印象を受けます。例えば、図工の時間なんかで「先生、紙!」としか言わない。そうじゃなくて、「先生、紙はどこにあるんですか」でしょ。と、その都度注意するようにしているんですが。これは教員全員で意思統一を図り、きちんと言わせるようにしています。
―言葉が足りない。つまりコミュニケーションのとり方が変わってきている?
野間:ケータイの影響かどうかわからないですが、以前、子どもたちが友だち同士で集まって遊んでいるのに、それぞれマンガを読んでいるというのがありましたね。あれが今、ケータイになっている。4人ぐらいで壁にもたれかかって、みんなそれぞれケータイをいじっていたりするんですよね。昔から比べると、友だち同士の会話も減っているんじゃないでしょうか。
―目の前に友だちがいるのに、ケータイで遠くの友人なりとコミュニケーションをとるというのは一種異様な光景に映ります。何がそこまで子どもたちを引き付けるのか。ケータイは子どもたちにとって、どんな点が魅力なのでしょう。
野間:やっぱり親を介さないで友だちとダイレクトにつながることでしょうか。昔だったらリビングにある黒電話で話しているから親につつ抜けだった。ちょうど思春期の入り口で、親に秘密が出来はじめる時期だから、それがイヤでイヤでしかたなかったですよね。それが、誰にも聞かれずに友だちと会話できる。しかも、メールだったら親の目の前でやってもわからないわけです。親からすると、子どもが見えづらくなっていると思います。
―メールでのやりとりというのは、顔の表情や声のトーンがないだけに、相手に誤解を与えたりしやすいとされています。子どもたち同士でトラブルが発生した例はないんですか。
野間:ぼくが知っている例では、チェーンメールを送って、それ以来口をきかなくなっちゃったという話しがあります。ただ、毎日学校で顔を合わせている者同士のやりとりなんで、そのあたりはうまくやっていると思います。それより、やはり社会で問題になっている迷惑メールやチェーンメールが子どもたちのケータイに入ってくることの方が怖い。メールでどんなイヤな思いしたかというアンケートをとったところ、1位が「迷惑メール」、次いで「知らない人から電話がくる」。次が「チェーンメール」の順でした。それらの対処については、日頃から教えているので問題はなかったのですが。
―そういう意味で教育というのが大事になってくるわけですね。先生が実践されている情報教育のコンセプトとはどのようなものですか。

野間:自分たちで正しいネット社会をつくろう、そういう気持ちを育てよう。というのをひとつの指針としてやっています。そのために情報モラル教育の方向性を4つ定めています。ひとつは、モラル。これは簡単に言えば善悪の判断ということですね。次に、マナー。人に親切にしてもらったらきちんとお礼しなさいということ。そして、ルール。デジタル万引きは絶対やってはいけないなどの決まり。4つめは安全。出会い系の引っかけメールとかクリックしないようにしようという安全への対処。これら4つをベースに、情報をいかに活用するか、いかに表現するか、それから情報伝達、情報モラルなどカリキュラム分けしています。
―授業を進める上で、大切にしているポイントは何でしょう。
野間:平成13年から情報モラルの教育を始め、それを広げる形で昨年から現在のようなカリキュラムを編成しているんですが、すべてにおいてまず体験させること。そして、問題点をみんなで考えて、どうしたらいいかまとめていく。例えば、個人情報を迂闊に書いてはいけないということを教える場合、実際にネット上にある個人情報を引き出すためのアンケートをスライドで見せながら行います。単にダメと言うのではなく、こういうところに記入すると個人情報がもれていくんだよということを、リアルな形でわかりやすく伝えています。ぼくが始めたころは、先例がないのでどうやったらいいかわからなかった。さっき言った個人情報に関する授業も、自分でコンテンツをつくったんです。
―そうした情報モラルの教育というのは、全国的にどうなんですか。あまり行われていない?
野間:インターネットを使って調べるという授業は、たくさんの学校で行われています。しかし、情報教育に関してはあまりやってない。なぜかと言うと、小学校の学習指導要領に、情報モラルというワードが一言も出てこないんです。ITを活用しなさいということは載っているんですけどね。でも、使うだけでいいのか、使う上で注意しなければならないこともたくさんあるはずなんです。パソコンの操作なんて子どもはすぐに覚えられます。それより、子どものココロが純真なうちに、規範や意識をうえつけるべきだと思いますね。2005年までには教室にパソコンが2台ずつ設置されるようになってきます。先生がいない時に教室で自由にパソコンを使えるという環境になってきたら、ますます情報モラルに関する教育が必要になってくる。学校のパソコンはフィルタリングがかかっていて、アクセスできる情報が制限されているといっても、家庭に帰ればあたり前のようにパソコンがあるわけです。
―そういう意味では、家庭での教育というのも重要になってきますね。
野間:そうなんです。ですから、学校ではこういう指導をしてますから、家でも同じような指導をしてください、ということをプリントにして配布しているんです。これからは家庭での教育をバックアップする上で、親との連携が大事ですね。それをやらないと絶対に徹底できない。学校と家庭が連携していれば、家庭で何かあった時にも気軽に相談してもらえるし、親御さんにとっても心強いんじゃないかと思います。これまでも、子どものケータイにチェーンメールとか架空請求が入ってきて、どうしたらいいんでしょうという相談を受けたことがあります。そういう時にきちんと指導すると同時に、それを授業にフィードバックすることもできるわけです。
―親が先生のところに相談に訪れるということは、子どもが親に相談しているということですよね。今のお話しを聞いていると、それがとても大切なことだと感じます。親に相談できないケースもたくさんあると思いますから。
野間:そう、そうなんです。その通りなんです。この間、子どもの電話相談室を25年やっている方と話す機会があったんですが、親に相談できなくて悩んでいるケースが非常に多いんだそうです。出会い系やアダルトサイトにアクセスして、不当な請求をされたりすると、恥ずかしさや後ろめたさがあって親に相談できない。そうしたことを言えるような家庭にしないといけないと思いますね。
―冒頭のお話しで、会話が少なくなってきたんじゃないかというご指摘がありました。すべてはそこにつながっていくのかなという気がします。コミュニケーションの問題ですね。
野間:今は子ども同士で遊んでもバラバラだし、塾とかスポーツとかで忙しい。地域でイベントをやっても子どもが集まらないんですよ。家庭内でも、お父さんお母さんも多忙で子どもと会う機会が少ない。会話もどんどん減っていると思います。ひとつ改善すればいいというわけではなく、いろんなことが関連し合っていて根は深いんです。大切なのは、まず、家庭の中で話すということ。おはようからおやすみまで、あいさつすることから始めようよ、と呼びかけているんです。そこから何かが生まれるかも知れない。今やるべきなのは、そうした基本的なことなんじゃないでしょうか。
―今、いろんな側面で負の部分が出てきているんですが、これが活性化してプラスに転じるむしろチャンスなんじゃないかという意見もあります。これから社会の主役になってくる「子ども」がキーワードになってきますよね。

野間:大人たちが「子どもを守ろう」と、盛んに言っています。これはすごくいいことなんですが、ぼくはここに子どもが入ってないのがすごく気になる。大人が考え、大人が実践しようとしているんですが、それだけではダメだと思うんです。子どもたちが自分で考え、主体的に行動することが大切なんですね。今、その方法を模索しているところで、ひとつサイトを立ち上げようと思っているんです。『ネット社会を考える子ども研究室』といって、子どもたちがこういう社会をつくりたい、こういうことをやりたいと自ら考える広場。あくまで子どもが中心で、ぼくは室長という立場で遠くから見守るという感じ。中高生でもいいから、そこからリーダー的存在を2、3人育てられたらいいと考えているんです。
―子どもには無限の可能性がありますし、すごい潜在能力を秘めているものですよね。
野間:それが出てくるのが主体的になった時なんです。やらされている状態では本当の力は身に付きません。学力は付くんですけどね。だから、授業でも子どもたちの主体性ということを念頭に置いています。そのカギを握るのが自分で課題を見つけられるか否か。自分で課題を見つけた子は、もういいよと言ってもやり続けるし、結果としていいものが出てくる。そうした授業ができるのが総合学習の時間なんです。総合学習の場合は、すぐに結果が出なくても、学び方を学ぶというのがひとつの目的なので、他の子を見て、ああいうふうに自分で課題を見つけてやると、すごいことができるんだと感じてもらえればそれはそれでいいんです。
―なるほど。そうした主体性をもって課題に取り組むことで、真の力が身に付く。それはまた、ケータイやインターネットの裏側に危険なものが潜んでいるということを想像したり、認識することにつながるのかも知れませんね。
野間:そうですね。同時に、親もどういう危険があるのかを認識した上で子どもに与えるべきだと思いますね。それから、食事中はメールをしないとか、最低限のルールを家庭内でつくること。大人も守れているかどうかあやしい状況なので、各家庭における最低限のルールづくりが必要だと思います。もうひとつ、インターネットの特性として匿名性があげられると思います。匿名だからこそ、普段悪いことをしようと思ってない人が、悪いことをしてしまうというところがある。だから、自分自身も加害者になってしまう危険性がある。そういう認識をもつことも大切ですね。
―最後に、事業者に期待されていることはなんでしょうか?
野間:そうですね。ある程度機能を制限した機種を出していただきたい。でも、それだと売れなくなるから、例えば安全モードを基本にした状態で売る。自分で設定して安全モードにするという発想ではなく、安全モードのまま売って、それを必要に応じて解除していくやり方もあると思います。ケータイの犯罪への悪用を防ぐためにプリペイドについて考えたり、国も口座の売買を禁止したり、色々と認識が変わってきている。国も、企業も、動いている。地域も動く、親も教師も、動く。その中に、子どもたちも主体的なカタチで加わる。それぞれがそれぞれの立場でやっていけば、少しずつ理想のモバイル社会に近づけるんじゃないかなと考えているんです。
―そのためにも、いろいろなカタチで協力していくことが必要なんですね。本日はどうもありがとうございました。
この記事は2004年12月20日に作成されたものです。
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