【対談後記】5人のコアメンバーとの対談を終えて

オピニオン!モバイル社会への提言

2004年4月1日に設立したモバイル社会研究所のwebを7月5日から公開することになり、このwebに掲載するべく1ヵ月半ほどの間に当研究所の初年度のコア研究に当たる5人の研究者の方々と順次対談した。

山川 隆 – (株)NTTドコモ モバイル社会研究所副所長

そもそも「モバイル社会」という言葉を聞いて、それがどのようなイメージを持つかは人によって様々である。何が「光」であり、何が「影」であるかも一様ではない。我々はモバイル社会とはコミュニケーションのかなりの部分がモバイルによって行われることが特徴的になった社会とし、モバイル革命が社会に衝撃を与えつつある状況の中で単純に利便性として享受できるものが光であり、これまでの規範では新しい状況に対応しきれないが故に我々が規範を変えなければならず、痛みを伴うものが影ではないかと置いて出発点とした。この想定が社会がいま置かれている状況を鮮明に捉えるための最もよい出発点であるか否かは今後の研究活動を通して検証、修正されていくであろう。状況認識やフレームの設定について異論やご批判を歓迎する。我々はなるべく沢山の方々にモバイルがもたらすものは何か、我々はどう変わったか、どう変わらなければならないかという議論に加わっていただき、より深く、より広範なコンセンサスの上に人類のコミュニケーションの次のステージを築きたいからである。

日本のケータイ人口はPHSも含め8500万人を越えた。ここ数年の間に、固定網の世界でブロードバンド環境が急速に整備されたのと双璧をなす形で日本のモバイルは進展した。3Gへの移行も急速であり、「ケータイ」が「携帯電話」の枠組みから大きく抜け出し、情報端末としてのポジションを確立しつつある状況はどの国よりも先進的である。一日のメール通数は通話数を遥かに越える。ケータイサービス上のコンテンツの充実も素晴しい。これだけ普及速度が速いのは明らかな利便性があるからということに異論のある人はまずいないであろう。

一方、家庭では親が子どものコミュニケーションをほとんど把握できなくなった。学校で教えることが出来るものには明らかに限りがある。公衆の面前におけるケータイ利用のマナーとエチケットはまだ議論され始めたばかりである。首をひねるような場面でもカメラの付いたケータイで平然と写真、動画が撮られる。本屋さんで雑誌記事の盗み撮りもある。ケータイの利便性と普及度の高さが流言飛語を生むこともある。新しい技術を手に入れた者が突出することにより弱者が一層弱者にされる恐れがある。子どもをいかに社会の害悪から守るかは便利な情報伝達手段が登場したときの伝統的課題であり、過去印刷物、映画、ラジオ、テレビ、ゲーム機等がそうであったようにケータイも負の側面をいかに減らすか考えなければならない立場に立たされている。

今回対談した5人の研究者の方々はそれぞれの研究領域からモバイル社会を見つめる確固たる視点を示してくれた。何が問題であるのか、それがどんな意味を持っているのか。この対談シリーズでは各先生方の問題設定に何度も目から鱗が落ちる思いをさせていただいた。もちろん、これで答えが出たのではなく、モバイル社会に関する我々の研究が解決すべき挑戦しがいのある面白い課題が浮き彫りにされたと考えている。

この対談シリーズがモバイル社会の行方に関心を持つ人の目に留まり、より大きな議論の輪に育つことを願う。

モバイル社会研究所 副所長 山川 隆

(※所属は2004年7月時点のものです。)

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