Q1. モバイルメディアのような、常時肌身離さず持ち歩き、常時誰かと対話や知識の共有ができる道具の普及浸透は、人々の思考や意識にどんな影響を及ぼしているとお考えですか?ポジティブに評価できる面と、ネガティブな面の両方があると思いますが、できればその両方についてお答えいただけると幸いです。
ポジティブな側面とネガティブな側面を分けるのは難しいところです。というのは、新しい技術は、いともすんなり、あっという間に日常生活に吸収されるからです。まるで、いつもそこにあって私たちの一部だったかのようにです。親たちは、自分の子どもたちのために携帯電話を買い求め、それを使って子どもの居場所を終日追跡します。親は、子どもが何らかの形で見守られているという安心感を得られます。自分たちがやりすぎなくらいにきっちり見守っているのだということを子どもに感じさせることができますしね。
でもご質問は、もっと深い論点、つまり、モバイル技術の使用は自己認識と自意識に影響を及ぼしているのかという問いを含んでいると思います。モバイル技術を利用する人は、ある意味で2つの場所に同時に存在できます。1つは勿論、ある瞬間にその人がいる現実の物理的な場所です。でも、自己を世界の中に投企(理解)する(project)装置、別の言い方をするなら、世界の諸々の部分を集めてきてそれらを自己にもたらす装置ですが、そういう装置を持つということは、他者が自分とともにあるということを内在的に気付かせてくれるものなのです。友人、家族、同僚、あるいは好きな仕事であったり、直接的に立ち入ったり干渉したりはしないけれども自己に対して存在する他者たちです。これは個々の人間に対して、自分たちのコミュナルな生や、自分たちが欠かせない一員であるところの社会、そしてより広い世界をいっそう強く意識させる影響を及ぼしうる事態なのです。
Q2. あなたは、「ソシオメディア」という概念を提唱されていますが、モバイルメディアが真にソシオメディアとして社会において機能するには、どんな課題が克服されるべきだと思われますか?またモバイルメディアを使う個人にとって、従来のようにテキストや画像主体ではなく、ビデオを使ったコミュニケーションへと拡張していくためには、どんなスキルやセンスが必要になってくるでしょうか?広い意味でのリテラシーについてのお考えを聞かせてください。
その答えは社会によって千差万別でしょうね。文化的な差異が、今なお私たち人間の生と伝統を規定している訳ですから。ですので、きわめて一般的な意味で、あるいは私自身の見地から可能なかぎり一般的にお答えしたいと思います。
見ればすぐわかることは、いくつかあります。データ通信の料金プランと機器本体に関して最初に必要な費用は、手ごろなものでなければなりません。機器のユーザーインターフェースデザインは改良されなければなりませんが、これは大規模なユーザビリティテストを通じてのみ成しえます。実装する機能の主要なものは、ユーザーテストによって評価されなければなりません。根本的な実用性を考えずにただ機能を付加するのは間違いです。あと、電池容量を改善しなければなりません。
最後に、モバイル機器上で見たり聴いたりして消費されるメディアは、そのモバイル機器に合うようにデザインされなければなりません。つまりこういうことです。例えば、ワイドスクリーンの映画やテレビ番組は、本来、携帯電話の小さな画面で見るためのものではありません。ですので、携帯電話で見る目的でそれを改変、再利用するのは、理に適ったことではないと思うのです。クリエイティブなアーティストは、その機器特有のエンターテインメントのかたちを開発しなければなりません。
Q3. あなたはMITで教鞭をとっておられますが、もしご自身でモバイルメディアを使った教育実践に携わっておられるようでしたら、その概要や狙いについてお聞かせください。また、あなたがご存知の範囲でユニークな、もしくは注目すべき教育関連の実践があったらご紹介ください。
MITのあるクラスでは、この3年間、モトローラ社の方々たちと協力して教えています。学生たちはこのクラスで、携帯電話向けのモバイルアプリケーションに焦点を絞った半期のプロジェクトに取り組みます。このプロジェクトでは、少人数の共同設計チームを組んで、企画と実際に作る作業と記録とを行ないます。このプロジェクトに加えて、小さなモバイルアプリケーションを各自で作るという課題もあります。学生たちは、企画、中間レポート、最終レポートを文書や口頭で行ない、自分たちの取り組みを記録していきます。このコースでは、J2ME、GPS測位、ユーザー中心の設計、ユーザビリティテスト、プロトタイピングの基本を扱います。過去のクラスのURLは、http://web.mit.edu/21w.780/www/spring2007/です。プロジェクトには、GPSを利用した交通管理システム、複数の人が一緒にプレイできるオンラインゲーム、課外活動用の学習ソフトウェア、ヘルスケア情報の保存と通信のための携帯電話利用といったものがあります。
私は、他にも2つのクラスで教えているのですが、そこでは、詩や小説の創作と発信へのモバイル技術を含むコンピュータ技術の利用に焦点を絞っています。電車を待っている間のような、じっくり物事を考えられるプライベートな時間に、情報の少ないものを深く読みたいと思っている携帯電話ユーザーがいます。そういう方々向けの俳句と短編小説も作っていますが、すばらしいものもいくつかありますよ。
Q4. 携帯電話やPDAなどモバイルメディアの普及浸透する社会を構想しようとする作業は、これに関連する企業や知識人の間で様々に試行錯誤されてきました。あなたは、モバイルメディアが普及した近未来は、どんな社会になると考えていますか?なるべく具体的にお聞かせください。
携帯電話や似た機能のあるPDAは、あらゆる種類のメディア(テレビ、インターネット、映画、音楽、パーソナルコミュニケーション)にアクセスするために使われるでしょう。その他、食料品を買うときにクレジットカードのように使うとか、ごくありふれた日常的な営みに使われるでしょう。
私の学生に、加工食品などのバーコードを読み取る携帯電話のアプリケーションを開発した者がいるのですが、そのアプリケーションは、何を購入しようとしているのかを教えてくれるという単純な処理だけではなく、必要な栄養を様々な持病のある個々人に応じて判定できるのです。別の学生は、交通システムの管理や不動産売買を簡単にするためにGPS携帯電話を利用しました。
携帯電話のカメラ(静止画も動画も)は、時間に即して自分の行動を記録したり、社会的に重要な出来事の瞬間を捕らえたり、もはや貴重な道具になっています。そして、そういう情報に対してとても細かいタグ付けを行なえるようにと、様々なアプリケーションが開発されました。その様にモバイル技術をユビキタスに使えば、人はお互いに離れた場所にいても、相手のもとを訪れているかのように感じることができます。また必要に応じて、日常的な営みの諸要素に接続することができます。もちろん個々人の私生活に対する侵害が、それにより拡大する可能性は出てきます。それでも個人を定義する情報はほとんど全部、ポケットに入れて持ち運べるようになるのです。
Q5. あなたの暮らす国・地域で、モバイルメディアはどのように活用されていますか?あなたが日頃感じている、何か特徴的だと思われることや、社会が直面している問題などがあったら教えてください。また、あなた自身がモバイルメディアをどのように活用されていますか?
アメリカ北東部では、携帯電話やPDAは、主に音声通話、インスタントメッセージ、Eメールといったパーソナルコミュニケーションに使われています。携帯電話のカメラでの写真撮影も普及したモバイル技術の1つです。でも、通信事業者のデータ通信の課金がとても高いため、携帯電話は、Web閲覧やそのほかのデジタル媒体をダウンロードするのにはまだ使われていません。人口衛星によるGPS測位は、ボストンのような都会では難しいです。基地局アンテナの場所を利用する位置特定も当てになりません。
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