Q1. 世界各地のメディア文化をめぐる状況についてフィールドワークをされてきたお立場から見て、日本のモバイルメディアの利用状況やそこから立ち上がっている文化に関して、特異性があるとしたらそれは何でしょうか?
日本は、知的できめ細やかなシステムインテグレーションに秀でています。でも見たところ、クロスプラットフォームなスタンダードを作ろうという野心が全然ないのです。これは日本の非常に冷静なところの1つです。でも日本人は、政治的な影響を受けながらの世界制覇などよりも、真にスマートな道具を作ることの方にむしろ関心を寄せているように見えます。日本には、面白い、イノベーティブなテクノロジー文化がずっと存在し続けるでしょうね。というのは、日本には不可知主義(人間の知る能力には限界があるという考え方)があり、細かいことに対する意識があるからです。そして、物事がどうやって統合されうるのか、その巧みな方法を理解するのが大好きだからです。マイナス面としては、欧米の人々がひっきりなしにそれらのイノベーションを組み立て直し、用途を変えて再利用し、また、スタンダードへの投資も世界的に行ない、それで大きく儲ける、といったことになるような気がしますが、よく思うのは、日本のモバイルの世界やオンラインの世界をもっとたくさん国際的にリアルタイムで伝えられれば、ということです。日本にやって来る友人達には、クールな日本のテクノカルチャーを説明しているのですが、理解するには大抵、コンテクスト全体が必要です。ともかく、これは私にとって一番重要なことなのですが、ここ日本には熱気と活力のあるモバイルやオンラインのコミュニティがあって、それが当地をとてもスマートに保っている必要不可欠な要素だということは確かです。だからこそ私は、自分もその一員でありたいと思い続けているのです。
Q2. あなたはビデオジャーナリストとしても活動されていますが、モバイルメディアはご自身の活動にどのように役立っていますか?またモバイルメディアを使う個人にとって、従来のようにテキストや画像主体ではなく、ビデオを使ったコミュニケーションへと拡張していくためには、どんなスキルやセンスが必要になってくるでしょうか?広い意味でのリテラシーについてのお考えを聞かせてください。
ビデオジャーナリズムは、近頃では非常に幅の広い領域ですが、今も変わらぬ重要な任務を帯びています。
ビデオは、自分のいる場所の詳細を明らかにしてくれる素晴らしい記憶装置です。だから私は、ビデオを撮影することにずっと関心を持ち続けてきました。ビデオ編集は私にとって、高解像度で記憶にとどめる方法に他なりませんでした。ですので、より小さく、よりスマートで、より高解像度の技術が出回っているという事実は、どのクリエーターにとっても良いことばかりだと思います。
今のところ大きな問題だと思っているのは、プライバシーの侵害です。たとえ物理的にはシュレッダーをかけても、情報の世界では皆が危険にさらされているのです。自分が望む情報を送ったり受け取ったりする権利は持つべきですが、それを超えて、見られない権利を誰もが持っているとしたら、どうなのかという問題があります。私は、オートフォーカスのカメラを役に立たないようにできるという装置について、読んだことがあります。フォーカスのシステムを狂わせるのだそうです。近い将来、人間はたくさんのステルス技術によって見られている状態になるのではないかと思います。私は、あらゆる人を透明にする、例えばBluetoothのような方法が好きではありません。でも、ご質問が暗示しているように、今個々人が手にできる防衛手段は、成熟したメディアリテラシーしかないと言って過言ではないと思います。
Q3. アートとモバイルメディアは、今後どのような接点を持つとお考えでしょうか。もし、モバイルメディアを使ったアートプロジェクトで面白いものをご存知でしたら、ご紹介ください。
先にお答えした様に、日本には本当の意味で創造力に富んだテクノロジー通の文化があると私は思っています。私はアートの分野でたくさん仕事をしていますが、第1の法則は基本的に、人が期待する様な場所からアートは生起しないということです。ですので、モバイルメディアの場合はまさに、スマートな誰かが、モバイルメディアを使う営みの新しいフィールドを浮かび上がらせるかどうかの問題になりますね。その新しい営みというのは、ハードウェアの改良からモバイル技術の思いもよらない応用に至るまでありえます。そして、変化のカーブの先を読んでいる大勢の人々は、そのムーブメントに接して飛躍するのです。そうして、私たちのモバイルライフスタイルは、まったく新しい局面を迎えることでしょう。私にそのような何かを始めるに足るだけの力があるかはわかりませんが、ちゃんと目は光らせて、それが始まった時には支持する心構えでいます。
Q4. 携帯電話やPDAなどモバイルメディアの普及浸透する社会を構想しようとする作業は、これに関連する企業や知識人の間で様々に試行錯誤されてきました。あなたは、モバイルメディアが普及した近未来は、どんな社会になると考えていますか?なるべく具体的にお聞かせください。
モバイルメディアの利用は、2つの層に分かれると思います。1つは、高解像度のインタラクティブデジタルコンテンツの利用。もう1つは、ユビキタスコンピューティング環境での利用です。前者は、たぶんハードウェア別に登録して利用するもので、後者は市街地に遍在していて、どんなハードウェアでも利用できるようなテキストと音と低解像度な情報に基礎を置くものでしょう。伝統的にテレビとラジオに使われてきた低い周波数は、基本的に、Web2.0と今呼ばれているユーザー生成コンテンツ用に使われるようになるでしょう。
想像するに、人々は、持ち歩きたいあらゆる情報(テキスト、音楽、ビデオ、チャット、音声など)にアクセスできる情報機器を携帯すると思いますね。彼らは自分の家にも情報機器端末を置くと思いますが、家庭内の情報は、例えばダイエット計画を立てるのに役立つトイレとか冷蔵庫みたいなものになるのでしょう。電力については、どの建物も基本的にその中に何らかの発電機能を備えるようになって、今日ブロードバンドインターネットを使っているのと同じように共有されるようになるでしょう。
Q5. あなたの暮らす国・地域で、モバイルメディアはどのように活用されていますか?あなたが日頃感じている、何か特徴的だと思われることや、社会が直面している問題などがあったら教えてください。また、あなた自身がモバイルメディアをどのように活用されていますか?
私は、ほとんど出張先暮らしです。ニューヨークと東京にオフィスを持っているのですが、1年のうち11ヵ月かそれ以上はヨーロッパで過ごし、さらに数週間はアジアでも過ごすのです…。つまり、この20年間、数ヵ月ごとに大陸間を結ぶ飛行機に乗っているわけです。
そんな状況で気付くのは、電話はインターネット経由で全世界的に使うことができないということですよね。なんともばかばかしい話です。この数十年間というもの、電話事業者は、電話の経験の価値を高めたことがないのです(例えやっていたとしてもそうなっていません)。そこからの脱却を願うばかりです。
それから、電話のハードウェアはもっと高性能でソフトウェアベースになる必要があります。今、UNIXやWINDOWS MobileやMac OSを使う携帯電話で盛り上がっていますけど、2~3年のうち、それ以外のアイデアは滑稽に見えるようになるでしょうね。電話は、人間がそうであるように、常にマルチタスクである必要があるのです。マルチタスクでない電話を使わなければならないがために犠牲となっていることがある、そんな異様な機会損失をずいぶん長い間我慢していたということを、未来の人々は不思議に思うことでしょう。
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